WWWブラウザを使う単語学習支援ツール

Word Learning Tools using WWW Browser
鵜川義弘、大武博、久保田章、藤田信之、金子周司
宮城教育大学、京都府立医科大学、筑波大学、国立遺伝学研究所、京都大学
ugawa@ipc.miyakyo-u.ac.jp

 

あらまし

 「EtoJ Vocabulary VH」は、問題文と対訳辞書からWWWブラウザで表示できるHTML文書を作成する単語学習支援ツールである。WWWブラウザに問題文が表示され、学習者がわからない単語をクリックすると、辞書引きが行なわれ、訳語が別フレームに表示される。この問題文で学習するとWWWブラウザの履歴として辞書引きの行われた単語の記録が残るので、後に習熟度のチェックを行うことができる。

1 まえがき

 ライフサイエンス辞書プロジェクト(文部省科学研究費「ライフサイエンス用語データベース作成グループ」)(ホームページ<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/index-J.html>)では、平成6年より日本で初めて広範な医学・生物科学分野における電子辞書と機械翻訳システムに関する研究調査を行い、医学・生物学の用語約3万語を中心とするデータベースを作成し、パソコン等で使える「かな漢字辞書」、「英和、和英辞書」、「用例辞書」「スペルチェック用辞書」を作成した。これらの辞書は、フリーウエアとして、NIFTY Serve FBIOのライブラリや、本プロジェクトのFTPサーバ<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/FTP-J.html>で提供しているほか、書籍等の付録CDでも無償添付している。さらに、このプロジェクトでは、辞書の他、パソコンやインターネットで利用可能なオンライン辞書、英和変換(翻訳)ツールEtoJ、EtoJ Vocabularyを開発し、ライフサイエンス辞書の活用を図ってきた。

 EtoJは、英語の文章を文頭から順に走査し、辞書に登録されている単語もしくは熟語のみを単純に日本語に置き変えてゆくもの(英和逐次変換)で、特定の学問分野で用いられる専門用語を分野を特定して訳出することにより、英文を格段に把握し易くさせることができるものである。英和変換(翻訳)ツールEtoJは、パソコン単体で動くものの他、電子メールサーバ、WWWで利用するものがある。インターネット上の英語情報と医学・生物科学の広範な領域をカバーするフリーウェアの「ライフサイエンス辞書」を組み合わせることにより、大きな利便性を得ることができる。今回発表するのは、このプロジェクトで作成したツールを単語学習に適用するものである。

2 単語帳作成ツールEtoJ Vocabulary

 ライフサイエンス辞書プロジェクトが提供する英和逐次変換ツールのうち、藤田が作成したEtoJ Vocabularyは、英語のテキストをクリック可能なHTML文に変換し、単語がクリックされるとその訳語を見せることができる<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/etojvoc-J.html>。EtoJ Vocabularyは、教科書の脚注部分に単語の意味が書かれているように、意味のわからない単語をクリックすると、その部分の訳語が、WWWブラウザの下方のウインドウに表示されるものである。EtoJが逐語訳を行って日本語訳を本文中に埋め込んで表示するのに対して、EtoJ Vocabularyは、単語帳を作成し、クリックにより単語の意味を表示できるようにする単語学習支援ツールと言えるものである。EtoJ Vocabularyを使用したWWWブラウザの中には、辞書引きを行った単語の学習記録が残るので、後で自分の英単語学習の参考にできる。鵜川は辞書引きを行った単語のリストを作成するMac用ツール「Voc_history for Mac with Netscape」を作成し、提供した<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/voc_his/voc_his.html>。

 今回開発したツール「EtoJ Vocabulary VH」は、Macまたは、Windowsパソコン単体で、Webにアクセスすることなく、1)学習用の問題文を作成し、2)辞書引きを行った履歴情報を取得するためのフリーウエアのPerlスクリプトである。

3 単語学習支援ツールEtoJ Vocabulary VHの使用方法

 以下は、Windows 95パソコンを学習者が使う場合であるが、Macの場合にも、ほぼ同じように使用できる。また、Windowsで作成した問題文であっても、Macで使用できるとともに、その逆も可能である。

A)必要な機器、ソフトウエアの準備

1)Windows 95または、Macのパソコン

2)WWWブラウザNetscape Communicator

(Windows 用Internet Explorerには、履歴の書き出しの機能がないようなので、履歴の解析には使えない。)

3)Perl、Windowsまたは、Mac用を<http://www.perl.com/>等から取得してインストールする。

4)単語学習支援EtoJ Vocabulary VHツール群<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/voc_his/>

B)必要なファイルの作成

1)対訳辞書テキストファイル(図1)
英単語<TAB>和訳<TAB>和訳...の形
図1 対訳辞書テキストファイル

2)問題文テキストファイル(図2)


図2 問題文テキストファイル

3)HTML問題文の作成

A−3)、A−4)を使い、上のB−1)、B−2)を読み込んで作る。

Voc_setに問題文をDrag & Drop(図3)


図3 問題文をVoc_setにDrag & DropしてHTML化する

作成された問題文は、HTMLなのでWindows、Macのどちらでも動く(作成後、ネットワーク上に置いて、教室全体で共通で使うことも可能。ネットワーク上のサンプル:<http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/voc_his/sample1.htm>)。

C)問題文の学習と履歴情報の抽出

1)履歴(ヒストリー)関係設定のチェック
初回の場合は、ヒストリーを覚える設定になっていることを確認後、既存のヒストリーを消去

2)HTML化された問題文を、NetscapeにDrag & Dropして表示(図4)。


図4 できあがった問題文をNetscapeにDrag & Drop

3)クリックしながら学習する(図5)。クリックした単語は、ブラウザの履歴として蓄積される。

図5 不明な単語をクリックすると対訳が現れる

4)データの書き出し

Netscapeの(ファイル、編集、表示、Communicator、ヘルプ)
メニュー:Communicator→履歴(H)を選びウインドウを出す(図6)。
ファイルメニューでフロッピーや他のフォルダーに書き出し、保存する。

図6 辞書引きの履歴が表示される

5)履歴情報の抽出

パッケージに含まれる抽出用スクリプトvoc_resに履歴ファイルをDrag & Drop

4 むすび

 WWWブラウザで英文を表示し、学習者がクリックした部分の英単語の意味を表示する一連のツール群を作成した。WWWブラウザでクリックする方法を用いると、辞書引きを行った単語の表示回数の履歴を残せるので、学習者に単語学習の上達状況を知らせることができる。英語教育の観点からみると、「EtoJ Vocabulary VH」を使って調査をすることで、学生ごとの習熟度を調べるためのツールとして使える。学生がどの単語をどの順序で調べているかがわかるので、学習過程の解明にも役立つ。

謝辞

 ライフサイエンス辞書プロジェクトのメンバーである河本健氏、竹内浩昭氏、竹腰正隆氏、またこのプロジェクトにご協力いただいた辞書モニター、入力選択担当の方々、ご意見をいただいたユーザの方々に深く感謝する。

参考文献

  1. 金子周司(ライフサイエンス用語データベース作成グループ)編:「医学・生物学のためのライフサイエンス辞書3.1スーパーブック」、羊土社 ISBN4-89706-618-2, (1997)
  2. 金子周司ほか:「フリーウェアのライフサイエンス学術用語辞書を作った理由」日本コンピュータサイエンス学会誌(Japanese Journal of Computer Science)Vol.1, No.1 pp.25-32 (1994)
  3. 藤田信之・金子周司:「ライフサイエンスのための英和変換ツール」日本コンピュータサイエンス学会誌(Japanese Journal of Computer Science)Vol.2, No.1 pp.41-45(1995)
  4. 金子周司ほか:「ライフサイエンス辞書2の制作と公開」日本コンピュータサイエンス学会誌(Japanese Journal of Computer Science)Vol.2, No.2 pp.135-142 (1995)
  5. 鵜川義弘ほか:「DeleGate Proxyを使ったWeb情報の英和逐語訳サーバ」Japan World Wide Web Conference '95,1995年11月28日神戸市国際会議場
  6. 河本健:「ライフサイエンス辞書2(LSD2)の内容と利用に関する調査および客観評価」,「専門用語辞書を電子メディア化」,アクセスプラン・エクストラ Ver.8,pp.8-10,全国大学生活協同組合連合会(1994)
  7. 渡辺良成ほか:「医学生物科学分野において翻訳支援ソフトウェアを利用して電気通信ネットワークを活用するための国際共同研究調査」電気通信普及財団研究調査報告書,No.9,pp.432-451(1995)
  8. 金子周司編:「生命科学論文作成 Macintosh リファレンス」羊土社 ISBN4-89706-607-7(1995)
  9. 金子周司:「ライフサイエンス辞書2の制作」,CIEC 会誌創刊準備号 pp.51-55 (1996)